障害のある児童生徒等の就学手続の改正

−パブリックコメントと施行令で新に加わった「認定特別支援学校就学者」とはなに?−

群馬大学教育学部 久田信行

 

今回の学校教育法施行令一部改正に関するコメントのタイトルをどう書くか迷って、「就学支援が変わる」と書いていましたが、パブリックコメントで文部科学省が用いた「障害のある児童生徒等の就学手続の改正」ということが良いかと思いました。しかし、新聞やテレビで紹介された「障害児童の就学先 個別判断に」とか、極端には「就学基準撤廃」と書かれていることとギャップがありそうです。

ボーッとしていて、「障害のある児童生徒等の就学手続の改正」についてのパブリックコメントが平成25年6月29日から7月28日まで募集され、その結果が以下のところで公開されていることを知りませんでした。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000103755 (9月9日)

 


 パブリックコメントを求めるときに用いた文書

学校教育法施行令の一部を改正する政令案の概要

・障害のある児童生徒等の就学手続に係る規制の事前評価書 (下線部 パブリックコメントのページへリンク)があり、

概要は短い文章ですが、どうも分かりにくい印象はぬぐえません。事前評価書に、もう少し詳しく書かれていて、制度改正の概略は書かれています。なお、6月末のこの文書では、後に述べる「認定特別支援学校就学者」というカテゴリーは書かれていませんでした。

上記の事前評価書で比較している「想定される代替策」の一つは「すべての児童生徒等を小中学校へ就学させる。」であり、もう一つは「すべての児童生徒等が小中学校へ就学することとなるため、転学に関する規定は廃止する。」という案であり、前者はコストも12兆円かかるなど、不可能な策だと書かれています。後者は、前者から導かれる想像上の状況です。12兆円というと、桁を間違えているのではないかと思われる方もいるでしょうが、以前、文科省は同じ試算を、「障がい者制度改革推進会議」にも出していたので、公式見解なのでしょう。また、今回の改正の場合、あまり経費が掛からないと推論しています。

施行令第22条の3については、特別支援学校の対象児の規定とし不可欠という説明を、パブリックコメントへの回答として述べています。

「認定特別支援学校就学者」

その後、施行令で登場した「認定特別支援学校就学者」とは何なのでしょう。障害があっても通常の学校へ行くことが原則可能な方向を障害者の権利条約は求めているので、施行令から「認定就学者」という特例で通常の学校へ就学させる者の規定が無くなるのは当然です。
しかし、その代わりのような感じで、「認定特別支援学校就学者」という名称が出てきた経緯は、施行令改正に関連する、パブリックコメントや通知からは分かりませんでした。
最初、施行令第22条の3の程度よりも軽いので、特別支援学校へ行けない生徒を、例えば高等特別支援学校などへ入学させる特例なのかと思ったのですが、そうではないのです。どうやら特別支援学校へ行く児童生徒は全て「認定特別支援学校就学者」になる様子です。また、施行令第5条を読むと、下記のように「認定特別支援学校就学者」を除いた者と書かれているのです。

第五条 市町村の教育委員会は、就学予定者(法第十七条第一項又は第二項の規定により、翌学年の初めから小学校、中学校、中等教育学校又は特別支援学校に就学させるべき者をいう。以下同じ。)のうち、認定特別支援学校就学者(視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)で、その障害が、第二十二条の三の表に規定する程度のもの(以下「視覚障害者等」という。)のうち、当該市町村の教育委員会が、その者の障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、その住所の存する都道府県の設置する特別支援学校に就学させることが適当であると認める者をいう。以下同じ。)以外の者について、その保護者に対し、翌学年の初めから二月前までに、小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない。
図にすると、視覚障害者等はこれまでの「特別支援学校適」と言われてきた、第22条3に該当する障害児のことで、そのうち「市町村教育委員会が…特別支援学校に就学させることが適当であると認めた者」が「認定特別支援学校就学者」となります。


図 「認定特別支援学校就学者」

第5条で、就学予定者から「認定特別支援学校就学者」を除いた児童生徒については「翌学年の初めから二月前までに、小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならない。」とし、第11条で「認定特別支援学校就学者」は3ヵ月前までに、都道府県教委へ通知しなければならないと規定しています。

(特別支援学校への就学についての通知)

第11条市町村の教育委員会は、第二条に規定する者のうち認定特別支援学校就学者について、都道府県の教育委員会に対し、翌学年の初めから三月前までに、その氏名及び特別支援学校に就学させるべき旨を通知しなければならない。

その上で、第14条で、都道府県教委は保護者に対して、「翌学年の初めから二月前までに、特別支援学校の入学期日を通知しなければならない。」と規定しています。

このように、入学期日など施行令は、諸手続のすすめかたを規定しているため、制度改正の考え方を示していません。従って、その精神は、9月1日通知の趣旨に書いてある以下の文から推測される精神だと思います。

今回の学校教育法施行令の改正は、平成24年7月に公表された中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」(以下「報告」という。)において、「就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。」との提言がなされたこと等を踏まえ、所要の改正を行うものであること。

この発想と、特別支援学校へ就学することが適しているという判断へいたる道筋が、どうなるか、「認定特別支援学校就学者」のあつかいが、とても注目されるところだと思います。


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