酸素飽和度の測定−認定講習における試み−

2020/08/21

(wordのファイルはここ)                               群馬医療福祉大学 久田信行

 血中の酸素飽和度は、指先に装置(パルスオキシメータ)を装着するだけで測定出来るので、特に重度重複障害児で医療的ケアが必要な事例などでよく用いられている。それらの場合は、日常の数値との変動に注意をしているので、標準値を求めることは少ない。

 一方、最近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、肺機能の低下をモニターする目的でパルスオキシメータが用いられる様になっている。この装置は日本で発明された物であるし、自覚症状がない段階でもある程度の変化を示すことから、現在より普及して良いと思われる。

 一般に、93%以下になると肺機能の明確な低下と言われているが、装置による誤差や、安価な装置では、規格を満たさないものもあり、標準値が一人歩きすることは逆に危険でもある。また、脈波も表示されて、脈が安定している時点で測定するよう推奨されているが、どの程度変動するかというデータも一般には示されていない。

パルスオキシメータと酸素飽和度についてネットの情報

パルスオキシメータの利用法

 一般的に9699%が標準値とされ、90%以下の場合は十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態(呼吸不全)になっている可能性があるため、適切な対応が必要です。慢性に肺や心臓の病気のある患者さんでは、息苦しさや喘鳴などの症状が強くなり、SpO2が普段の値から34%低下した場合は、かかりつけ医に連絡するか受診をしてください。

 操作自体は簡単で、家庭での購入も可能ですが、測定値のもつ意味はその人の状態やかかっている病気によっても異なるため、測定値の判断は主治医など医療専門の方の指導を仰ぐことをお勧めします。 酸素飽和度(SpO2)は肺や心臓の病気で酸素を体内に取り込む力が落ちてくると下がります。主に病院や在宅治療の患者さんで、必要に応じて測定します。睡眠時無呼吸症候群の簡易診断にも利用します。加齢によってもある程度低下し、労作時にも変動します。    

使用時の注意

 測定結果に誤差を与える要因がいくつかあります。体動によって発光部と受光部がずれる場合や、指先の冷えなどで測定部に血流が十分にない場合、マニキュアなどで光の透過が邪魔される場合などに、正しく測定されないことがあります。SpO2は一定時間、あるいは一定の脈拍毎に得られた値を平均して表示していますので、装着直後ではなく、脈拍が安定する2030秒後に数値を読んでください。

日本呼吸器学会のホームページから引用(https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=139

 

概要

 もし100個の赤血球全部に酸素がついていれば、酸素飽和度は100%になります。普通は酸素飽和度は9799%くらいです。これが93%以下になると、正常よりは体の中の酸素が少ない状態で、90%以下になると「呼吸不全」といえます。

https://www.min-iren.gr.jp/?p=3885(全日本民医連)     

目的

 そこで、パルスオキシメータを実際に使う体験と、使用前後の除菌液の使用感を体験して貰うために、認定講習の中で、即興で実験を行った。本来、測定は厳密な条件で、熟練した測定者が実施すべきであるが、今回は測定をしてみることと、自分の数値を知ることを目的としたため、一定の教示の元で、自分で測定・記録することとした。それだけに、厳密な実験とは言えないが、測定の結果をまとめ、情報共有することとした。

 

方法

装置:JIS規格対応(JIS T 80601-2-61:2014)のシースター社販売のパルスオキシメーター オキシシリーズ S-127(中国製、日本で検品)を用いた。画面に酸素飽和度(%)と脈拍数および脈波(血流量)の簡易表示が表示される。

被験者:認定講習重複障害児教育総論の受講生27(男性8名、女性19)年齢は20代から50代まで。肺疾患や心疾患の既往については調査していない。

年代

女性

男性

総計

20

3

 

3

30

4

4

8

40

10

 

10

50

2

4

6

総計

19

8

27

手続き

教示:装用の仕方、スイッチの入れ方をデモンストレーションし、装着直後、10秒後、20秒後、30秒後の時点で、酸素飽和度(%)と脈拍数を視認し、白紙に記入する。白紙にはあらかじめ氏名、性別、年齢を記入して貰った。

結果

 全員から記録を提供して貰った。教示が不十分で、検査者が測定した訳でもないので、欠測値が多数みられ、13名は全て書かれていたが、12名は直後か30秒後が書かれておらず、2名は他の部分も欠測値であった。これは、急に即興で測定を受講生に依頼し、教示の説明が不十分だったためと思われた。

 表-1 計測結果の概要

性別

年齢

直後

10

20

30

直後脈拍

10秒脈拍

20秒脈拍

30秒脈拍

平均

41.7

97.4

97.6

97.7

97.8

74.5

79.7

77.7

78.8

SD

10.1

1.5

1.3

1.3

1.3

11.0

10.0

10.4

10.0

人数

27

16

26

27

25

15

25

26

24

 20秒後の酸素飽和度(%)が最も多く計測されているので、性別と年代によって異なるか否か集計してみた。

-2 パルスオキシメータ酸素飽和度の平均(装着後20秒)

年代

女性

男性

総計

20

98.3

 

98.3

30

98.0

96.8

97.4

40

97.8

 

97.8

50

97.5

97.5

97.5

総計

97.9

97.1

97.7

 

 女性については、年代が若い方が飽和濃度が若干高い結果となっているが、差も小さく被験者も少ないので一定の傾向があるか否か断定できない。男性では一定の傾向はない。平均で言うと97-98%ということになる。

 酸素飽和度について直後、10秒後、20秒後のデータが測定された15名について、個人内の差を検討した。

 直後と10秒後の差は全て±1%以内で、平均すると0.3%程度10秒後の方が高い。

 直後と20秒後を比較すると、2名が+2となっている以外±1%以内で、平均すると0.4%程度20秒後の方が高い。

 このように、変動は小さいと言えるが、10秒後と20秒後の差は更に小さく、差の平均が0.1%となるので、10秒程度測定すると比較的安定した値を得ることが出来るものと推定される。

 酸素飽和度と心拍数を計測したが、両者に連関があるか否か20秒後のデータについて、散布図を描いて検討した。


 この散布図では、心拍数の多少と酸素飽和度に一定の関連は認められない。酸素飽和度は98%が最頻値で、95から100%の間であった。ちなみに、表-1の20秒後の酸素飽和度は、平均97.7%、標準偏差1.3なので、2標準偏差で幅を推定すると95.1100.2となり、ほぼ同様な値となった。いずれにしても、95%という数値は恐らく正常域に入っているものと推定される。

 93%以下が異常値とされているが、3標準偏差低い値は93.85となり、94だとすでにかなり低い値と考えることもできる。ただし、酸素飽和度は上限が100なので、分布に偏りがあると推定され、正規分布を元にした2標準偏差という目安に妥当性があるか否かは、さらなる検討が必要である。

                                            (以上)